所報4月号
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13コラム 潮目とは二つの潮流、例えば暖流と寒流がぶつかる境目のことをいう。そこには、プランクトンが大量に発生し、魚群が集中する。故に、腕のいい漁師ほど潮目の変化を見逃さない。経営者とて同じこと、経済の潮目が変わったら、即座にそれを捉え、先を読まなければならない。なぜなら、そこはビジネス・チャンスの宝庫だからである。 三井財閥の始祖となった三井高利は、江戸の前期と中期を分かつ潮目の変化を巧みに捉え、大成功を収めた商人である。当時の豪商は大名に金を貸し付けたり(大名貸し)、呉服などの商品を掛け売りしたりして、その富を増やしていた。ところが年々、大名が窮乏していき、その借金や掛け買い金を踏み倒すようになった。この不良債権の大量発生によって、なんと四十八家もの豪商がつぶれている。 この流れをいち早く察知した高利は、商売相手を大名から庶民に切り替えた。このころから潤い出した庶民の懐を狙ったのである。それが「現銀(金)、安売り、掛け値なし」の越後屋呉服店(現・三越)である。高利は消費構造の潮目の変化(庶民でも絹を着るようになった)を巧みに捉え、価格破壊(安売り)を行い、反物の絹を顧客の要求通りに裁断して売り、現金取引で日銭を稼いだのである。その一日の売上高は千両を超えたといわれている。 本来、潮目の変化にスピーディーに対応できるのは、大企業よりも小回りの利く中小企業のはずである。とすれば、潮目の変化は中小企業にとって「チャンス到来」と言っていい。 いま、その潮目が変わりつつある。国内にあってはすでに「新成長戦略」がある。その中の介護、農業、観光、環境分野は、アイデア次第で中小企業でも成功可能であろう。一方、国外に目を転ずれば、新興国の勢いがすさまじい。ちょうど、日本が高度成長期に入ったころとそっくりである。とすれば、そこにも中小企業の出番があろう。 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03―3835―9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)など。野 口 誠 一(のぐち・せいいち)「『潮目』の変化を読む」八起会 会 長 野 口 誠 一

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