所報6月号
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13コラム 「カルメン」で有名なフランスの作家プロスペル・メリメは、「女と影法師は追えば逃げるし、逃げれば追い掛けてくる」と言っている。私はそれをもじって、「欲と影法師は追えば逃げるし、逃げれば追い掛けてくる」と言うことにしている。シャレではない。欲というものは影法師同様、自分の身にぴったり寄り添っていながら、決して意のままにならない代物だからである。私は「自分の欲を上手にコントロールできる人だけが人生の成功者になれる」と信じている。 八起会のメンバーのうち創業経営者だった約300人に、「あなたは会社を設立して何年後に倒産しましたか」というアンケートを行ったことがある。その結果は、第一位が「5〜10年後」で、以下「10〜15年後」「15〜20年後」と続き、「5年未満」は最下位だった。これは何を意味しているのだろうか。思うに、創業当初は誰しも必死に努力するし、その必死が5年も続けば、よほどいい加減な会社でない限り、大方は軌道に乗るということであろう。 しかし、倒産の危機は軌道に乗ったところでやってくる。なぜか。原因は2つ、油断と大欲である。経営にとって5年などほんの一里塚にすぎないのに、軌道に乗った安心と自信からふっと気を抜く。その気の緩みに乗ずるのが油断である。安易に名誉職を引き受けたり、名士気取りで外車にゴルフに接待にとうつつを抜かしたりしていると、アッという間に経営は傾く。まさに油断大敵である。 一方、無欲・小欲で軌道に乗せたはずなのに、その初心を忘れると大欲を生じやすい。大欲は無理を呼び、無理は破綻を招く。小欲は身を立て、大欲は身を滅ぼすと言っていい。相次いだ企業不祥事はその大欲の現れであったが、東日本大震災に際しては、大企業も中小企業も、そしてその経営者も、被災地や被災者への支援を惜しまない。まんざら捨てたものでもないと思えてくる昨今である。 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03―3835―9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)など。野 口 誠 一(のぐち・せいいち)「『欲』のコントロールを」八起会 会 長 野 口 誠 一COLUMNコ ラ ム

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