所報10月号
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11コラム原子力がなければエネルギー安全保障が脆弱にぜいじゃく国際環境経済研究所所 長 澤 昭 裕 1957年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入る。87年にプリンストン大学で行政学修士を取得した後、工業技術院人事課長、環境政策課長、資源エネルギー庁資源燃料部政策課長を経て、2004年に東京大学先端科学技術研究センター教授に就任。07年から21世紀政策研究所研究主幹を務める。著書に『地球温暖化問題の再検証』(東洋経済新報社)、『エコ亡国論』(新潮新書)などがある。澤 昭 裕 (さわ・あきひろ) 今後の原子力利用をどうするかについては、当然、十分な議論が行われるべきである。しかし、過度にイデオロギーによった議論をすれば、「反原発」か「原発推進」か、という2項対立となり、建設的な方向へ進みにくくなる。そうではなく、今後のエネルギー政策を考える上では、エネルギー源の長短を冷静に比較検討し、エネルギー供給構成のバランスを探っていくことが必要だ。 震災前の10年ほどの間のエネルギー政策は、地球温暖化への対応に重きが置かれたものとなっていた。しかし、震災後の計画停電などにより、本来第一に考えるべき安定供給の重要性が再認識された。そもそも原子力発電を進めてきた経緯には、1970年代に起きた石油ショックによる社会的混乱の経験から、電源を多様化して石油依存度を下げるという目的があった。その結果、震災前までは原子力が総発電の約3割を占めるまでに至り、電源多様化に貢献してきた。また、燃料であるウランの埋蔵地域が政治的に安定しているため、原子力にはエネルギー安全保障上のメリットもある。これに加え、再処理することでエネルギー源として再び使えることから、エネルギー自給率が低くエネルギー源を海外に頼らねばならない日本にとって、原子力の意義は非常に大きい。また、原子力というオプションを有していることが、化石燃料を輸入する際の価格交渉にも大な影響力を発揮する、という効果にも、もっと注目すべきである。 エネルギー自給率と原子力利用には相関がある。エネルギー自給率が低い日本(4%)とフランス(8%)の一次エネルギー供給に占める原子力の割合は、それぞれ14%と43%である。逆に自給率の高いロシア(176%)、カナダ(144%)、中国(93%)、インド(75%)の原子力の割合は、それぞれわずか6%、9%、1%、1%である。つまり、国内にエネルギー源がない国にとっては、原子力はエネルギー政策上、欠かすことのできないオプションとなっているのだ。 日本のエネルギー自給率は依然低く、原子力を代替できるエネルギーをすぐに得ることはできない。この現状を考えれば、安定供給に関わる多くのメリットがある原子力を放棄することには、慎重にならなければならない。安全性の向上を大前提にしながらも、一定程度の電源の選択肢として維持していく方向でエネルギー政策を立案するべきである。◆NPO法人国際環境経済研究所は、産業界や研究機関、行政、NPO、メディアなどから環境問題に精通した有識者が集まり、地球温暖化対策における経済と環境の両立を目指した情報を発信しようと2011年に設立された。ホームページ:http://ieei.or.jp/

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