所報3月号
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13コラム ある日のこと、倒産「110番」が鳴った。「最近、銀行が債権を放棄してくれると聞きましたが、どうすればよいのでしょうか」と言う。近ごろ、この手の相談がめっきり増えた。かつてはほとんどあり得なかった相談内容である。そのたびに私は、「法律的には抜け道もないではありませんが、おそらくその抜け道の先に幸せはありませんよ」と説く。と、そのとたん、電話がガチャンと切れる。 また、「あなたも大変でしょうが、債権者も大変なのですよ。法的に整理すればゼロにはなるかもしれませんが、マイナスになることはありません。ヘタに小細工して財産を残すよりも、誠意ある整理が一番です。それが再起への近道であり、幸せへの近道でもあります。まずは心の再起、そこから始めてはいかがですか」と説くと、「ばか野郎、おまえはどっちの味方なんだ。心で飯が食えるか」と、これまたガチャンである。 相談者が特に強欲なわけではない。先のバブルがまき散らした拝金主義のなせる業と言っていい。中には女性の声で「主人が自殺したら、保険金はみんな債権者に取られてしまうのでしょうか」などという相談もあり、背筋が寒くなることもある。が、それもこれも「金がなければ」「金さえあれば」のバブルがもたらした風潮と言っていい。 おそらく後世の歴史家は、20世紀最後の10年と21世紀最初の10年を、「バブルと企業不祥事の時代」と位置付けるに違いない。日本のバブルをはじめ米国のITバブル、住宅バブル、さらには欧州の国債バブルと、次々に発生してははじけた。そして後には企業不祥事が山のように積み上がった。江戸時代の川柳に「のぼっても峠を知らぬ欲の道」とあるが、欲に目がくらめば企業は倫理を忘れ、経営者は志を失う。後は峠のない欲の山を登り続けるしかない。こうして一度はびこった拝金主義はしぶとく生き残り、今も私たちをむしばんでいると言っていい。「心で飯が食えるか」八起会 会 長 野 口 誠 一 1930年東京生まれ。日本大学卒。55年に玩具メーカーを設立。急成長を遂げたものの、ドルショックと放漫経営がたたり77年に倒産。翌78年「倒産者の会」設立を呼び掛け「八起会」を起こす。「倒産110番(03-3835-9510)」を中心に、再起・整理・人生相談まで無料奉仕。 著書に『修羅場の人間学』(東洋経済新報社)、『こんな社長が会社をつぶす!』(日本実業出版社)、『幸せをあきらめない』(致知出版社)、『家族の力』(祥伝社新書)、『不況だから倒産するのか?』(佼成出版社)など。野口 誠一(のぐち・せいいち)COLUMNコ ラ ム
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