所報5月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べされ、販売は宅配便を利用した直販で行われる。 このように製造から販売までしっかりとした体制が整えられている同社だが、 リーマン・ショックや円高などをものともせずに快進撃を続けているのが、今回紹介する、従業員60人足らずの中小企業「徳武産業」だ。 同社は、のどかな田園風景の広がる香川県さぬき市郊外にある中小企業だが、今やわが国のケアシューズマーケットで約35%のシェアを持ち、業績も10年以上増収増益を続けている驚くべき企業なのである。 創業は昭和32年。現社長の十河孝男氏の義父である徳武重利氏が、手袋縫製の下請け企業としてスタートさせた。その後、この技術を活用したルームシューズの分野に業務をシフト。現在は、高齢者や足の不自由な人のためのケアシューズ「あゆみ」が主力製品となっている。この商品は、パーツオーダーシステム、つまりお客の要望に合わせて製造これまでの道のりは決して平たんではなかった。取引先の取引姿勢や、円高や不況のたびに繰り返される一方的で大幅なコストダウン要請などの問題に直面。それに嫌気が差し、「このままでは経営はじり貧になり、自分も社員も幸福になれない」と考えた十河夫妻は、「好不況に左右されない自家商品を何としても持たなければ」とさまざまなセミナーに参加し、同時に市場調査も重ねた。そして、開発する商品を腫(は)れやむくみ、外反母趾(がいはんぼし)など、足に悩みを持つ高齢者のためのシューズに絞り込んでいく。実際の商品づくりでは、不足していた技術力を補うために一流の靴職人を招聘(しょうへい)。その一方で、試作品を約500人の高齢者に試用してもらった。 こうして全社一丸となって自社の商品開発にまい進して5年がたった平成7年。ようやくケアシューズが完成し、オリジナル商品がほぼ100%という脱下請けに成功した。ちなみに、23年までの16年間に販売したケアシューズは、累計で500万足を超える。脱下請けを実現した中小企業vol.02 同社の快進撃の要因は多々あるが、あえて3つを挙げるとすれば、第1は、新商品の開発に当たり十分な市場調査を行い、中小企業ならではの特徴を発揮できるニッチマーケット(隙間市場)に絞り込んだこと。第2は、その販売を流通業者任せにせず、宅配便を活用した直販としたこと。そして第3は、商品を発送するケースの中に入れる、社員が一枚一枚真心込めて書き上げた「真心のはがき」と名付けられたメッセージカードや、誕生日に贈る手紙付きのプレゼントが顧客の心をつかんでいることだ。ちなみに、同社に届く顧客からのお礼の手紙は、年間なんと2万通にも上るそうだ。 同社のこうした経営を見せられると、「景気は与えられるものではなく、自らが創るもの・・・」と思い知らされる。コラムコラム14

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