所報10月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ貫して掲げた大義を軸に、愚直一途に経営道を邁進してきているからだ。 特筆されるのは、社員のおよそ3割は、障がいがある人やニート・フリーターだった人、あるいはシングルマザーといった社会的弱者と呼ばれる人々であることだ。なぜ、こんなにも多くの社会的弱者と呼ばれる人々が集まってきたのだろうか。その理由は、同社の大義、とりわけその採用の姿勢・方針にある。つまり同社は、創業間もない中小企業だったということもあるが、「真面目に働きたい人、この指とまれ」方式で、来る人拒まずの姿勢で社員を採用してきたのだ。 創業後数年間、渡邉社長は求職者が持参した履歴書をほとんど見ずにあいさつや笑顔を含めた人間性で判断したという。その結果、過去の経歴や障がいがあるという理由で、働きたいけれど、その場所 東京メトロの青山一丁目駅近くの高層ビルに「アイエスエフネット」という社名の人にやさしいIT企業がある。創業は今から12年前の2000年だが、現在の社員数は2300、その拠点は、東京ばかりか全国各地、近年ではアジアの国々にも進出している。 創業者であり現社長の渡邉幸義氏は、もともとは外資系IT企業のエンジニアだったが、独立し、「雇用の創造と人間尊重の経営」を大義に掲げて数人の仲間とスタートした。近年、同社が注目されるゆえんは、創業後、わずか十数年で社員数が2300を超える規模にまで急成長したことにもあるが、何より創業以来、一がなかった真面目な人々が、同社に続々と採用されていったのだ。 渡邉社長は、社員の中に障がいがある人がいるということを、同社が社員とのコミュニケーションを持つため頻繁に開催している懇親会(ノミュニケーション)の場で、本人から初めて知らされたという。しかもその多くは、すでに会社の主要な戦力だった。 障がいがある人の生産性の高さや、社員が優しくなるなどの効果を実感した渡邉社長は、それならば、と06年に堂々と5大雇用宣言をする。5大雇用とは、①ニート・フリーター、②障がいがある人、③ワーキングプア、④シニア、⑤引きこもり、である。こうした活動はさらに進化し、現在はこれに加え、難民やホームレスなど20大雇用宣言をしている。しかも同社は、2020年までに、障がいがある人を1000人雇用し、月給を25万円支給すると明文化している。 こうして見ると、同社の快進撃の理由は「障がいがある人の積極的な雇用」にあったといえる。弱き人々を雇用する『アイエスエフネット』vol.07コラムコラム16
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