所報4月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年東京生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べに卸すという経営ではなく、売り場の奥にある工場で、1本ずつ丁寧に手作りで製作された刃物を、その場で売るという「製販一体型」の企業なのである。 わが国の代表的刃物産地である関市、越前市、三条市そして三木市などの企業の大半は、製造機能しか持たない、いわゆる下請型タイプの企業であるが、同社は「自分で考えたものを自分でつくり、自分で売る」という2・5次産業なのだ。 第3点は、その販売先で、現在の同社の売上高の40%は輸出である。しかも、そのほとんどは欧米諸国である。もともとは国内向けが中心であったが、円高経済や、アジアなどからの低価格品の攻勢もあり、価格競争力ではなく非価格競争力で新たな活路を見いだすため、あえて高級品というマーケットに絞り、市場を先進国に求めたのだ。 輸出のきっかけは、海外見本市への出展や海外の専門誌の活用、さらに言えば、インターネットの活用などである。 熟練の刃物製造職人の高品質な手作り刃物は、あっという間に欧米の料理人などに知れ渡り、輸出が拡大していった。ちなみに、気になる値段はというと、家庭用の包丁がおおむね1本1〜2万円、鍬も1 熊本県八代市の住宅地の一角に、「盛髙鍛冶刃物株式会社」という社名の、刃物の製造小売企業がある。従業員は家族を中心に7人、主製品は社名同様、包丁やハサミ、さらには鎌や鍬(くわ)などの農機具類である。 こう言うと、どこにでもある小さな金物屋さんと勘違いされそうだが、その内容は驚くべきことばかりである。その驚くべき内容をここでは3点に絞り述べる。 第1点は創業年で、同社の資料によると、創業は今から720年前の1293年であり、現在の社長である盛髙経博さんは何と27代目だ。時代が鎌倉時代ということもあり、もともとは刀剣類を製作していたが、現在は包丁や農機具類である。この間、幾多の困難があったが、伝統の灯を消してはならないと、代々、子どもに引き継がれ今日に至っている。 第2点は、単に刃物を製造し流通業者万円前後と、ホームセンターの商品の5倍以上である。にもかかわらず売れ続けているのは、同社の商品の切れ味はもとより寿命が長いからだ。 こうした盛髙鍛冶刃物の経営の考え方・進め方は、これからのわが国モノづくり中小企業の今後のあり方を示唆しているといえる。モノづくり中小企業の活路を示す『盛髙鍛冶刃物株式会社』vol.11コラム16

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