所報2月号
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費税の価格転嫁対策のポイントについて日本商工会議所消費税転嫁対策窓口相談等事業実施ワーキンググループ委員で中小企業診断士の秋島一雄さんが3回にわたり解説します。1回目は、そもそも「消費税の転嫁とは一体何で、なぜ転嫁対策が必要か?」という点に絞ってお伝えします。 ご存じのとおり、平成26年4月1日より消費税率が現在の5%から8%に引き上げられます。税率の引き上げにより、事業者はさらに厳しい経営環境に陥る可能性があります。事業者は買い手の購買意欲を考え、税率上昇分を価格に転嫁しない可能性が高く、消費税引き上げ相当額がそのまま収益の減少に結びつくからです。 適切な価格転嫁ができれば、事業者は従来の収益の確保が可能です。消費税は、仕入れ時には仕入れ価格に消費税分を加えて支払い、販売時に本体価格に消費税分を加えて受け取り、支払った消費税と受け取った消費税の差額を納税します。すなわち、消費税は、仕組み上は、取引の各段階で商品やサービスの価格に転嫁(上乗せ)されることで、最終的には、商品やサービスを受ける消費者が負担するので、税率が何%であろうと事業者の収益には関係がない、ことになります。 しかし、実際のビジネスでのやり取りはこれほどシンプルでしょうか?例えば、消費税5%時と8%時の本体価格が同額でも、税込みの支払い総額が買い手の負担増となる状態で、従来と同じ数量を販売することは可能でしょうか?また、税込み価格が298円や1000円といった値ごろ感のある価格やキリのいい価格から変わると、購買意欲の減退が起らないでしょうか?ここで、税率が8%に引き上げられた後も、販売価格を税率5%時と同じ価格に据置いた場合を考えてみましょう。 下の表は税抜きベースで仕入れ額が1万円、売上額が2万円の例ですが、税込み販売価格を2万1千円に据え置いた場合の利益の減少額を示したものです。税率引き上げ後も販売価格を据え置いた場合、増税分を事業者が負担することになるため、税抜き売上額の減少になります。その結果、なんと利益は約5・6%も減少します。つまり、適正な転嫁をしないと、その分収益が圧迫されて しまいます。 このように、従来の収益を維持するためには、消費税を適正に価格に転嫁しなければなりません。しかし、実際のビジネスでは、支払総額の増加による買い手の買い控えや競合他社との価格競争などがあります。そして、最終的には売れる値段での価格設定が必要になります。 すなわち、単純に従来の価格に消費税率分を上乗せするといった一律転嫁ではなく、売上げへの影響を加味して、事業全体で適正な利益確保を目指していく必要があります。具体的には、目玉商品などは販売価格を据え置く(実質値下げ)一方で、他の商品の価格は、目玉商品などの値下げ分をカバーする値上げを適正な転嫁の範囲内で行うといった方法が考えられます。 さらに、価格設定以外にも、企業体質強化に向けた原価低減、販売促進活動や、納税額増加に向けた資金繰りなどのさまざまな準備や対策も必要になってきます。次回以降、この対策をお伝えします。日本商工会議所消費税転嫁対策窓口相談等事業実施WG委員東京商工会議所中小企業相談センター・コーディネーター/中小企業診断士秋島一雄消費税率 引き上げと中小企業の転嫁対策「なぜ対策が必要か」消上乗せできないと 収益を圧迫事業全体で適正な利益の確保を1消費税を転嫁せずに価格を据置くと売上額(税込み)売上額(税抜き)仕入額(税抜き)税引利益売上額(税抜き)が下がる売上額(税込み)変わらない利益が減っていることに気づかない売上額(税込み)売上額(税抜き)仕入額(税抜き)税引利益21,000円20,000円10,000円10,000円21,000円19,444円10,000円9,444円8%10%5%時8%時販売転嫁事業者に納税義務あり消費税転嫁のイメージ事業者事業者納税800円売値10,800円消費税800円本体価格10,000円税金を実質的に負担※売上分の消費税額と 仕入分の消費税額の 差額を納税販売消費者実質的な負担額1,200円(800円+400円)事業者に納税義務あり売値16,200円消費税1,200円本体価格15,000円1,200円800円差引400円転嫁納税400円{コラム5
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