所報6月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ模ではあるが、創業以来、リストラなど一切せず、黒字経営を持続している。しかもその利益率は5%をはるかに超えている。 これまで同社が、ぶれずにゆっくりではあるが、着実に成長発展してきた理由は多々あるが、最大の要因は「人、とりわけ社員に優しい経営」に愚直一途かつ真剣に取り組んできたからといえる。例えば、同社は超ガラス張り経営で、損益計算書や貸借対照表といった決算書はもとより、月次ベースのそれも全社員にオープンである。加えて言えば、社員持株会もあり、全社員が株主でもある。 また、賃金や福利厚生の面でも従業員を幸せにしたいという思いが強く、従業員1人当たりの月平均残業時間はなんと8時間以下である。これは野村社長が、「残業は本人だけでなく、帰りを待っている家族にも申し訳ない」と年々減少させてきたからである。 肝心の賃金はというと、従業員1人当たりの年収は約673万円である。余談であるが、同社では社員を支える家族に感謝するため、社員の家族にもボーナスが支給されるという。 ともあれ、こうした野村社長の熱い社員思いの経営こそが、従業員やその家族に安心感を与え、会社への 千葉県君津市に千葉オイレッシュという会社がある。場所は、東京駅から東京湾アクアラインを通り鴨川方面に向かうバスに乗って2時間ほどの、正直、交通の不便な中山間地にある。 同社の主事業は再生油の製造販売で、小さなマーケットとはいえ、業界では有数の企業である。設立は昭和55年、現社長である野村進一氏が脱サラし、故郷に帰り起業している。野村社長は、大学卒業後、メガバンクに就職したが、次第に老いていく両親の面倒を見るためと、過疎化が進む故郷を再生したいと、あえて起業を選択したのである。 銀行員だったこともあり、急成長・急拡大という業界や経営をあえて避け、当時、競合相手のいなかった資源の再生ビジネスに着目し、「ゆっくり」「着実」に経営を進めてきた。その結果、現在の社員数は21人という規高い信頼感を生んできたのである。ちなみに従業員満足度の1つの証である離職率は、なんと創業以来、実質ゼロパーセントという。 こうした企業の存在を見せつけられると、企業の盛衰は全て経営者の背中と心にかかっていると言わざるを得ない。人に優しい『千葉オイレッシュ』vol.23コラムコラム16
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