所報6月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。他に、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ言葉はおかしい。社員は費用どころか、価値創造の源泉だ」とまで言い切る。こうした社員思いの経営が、社員や、その家族の会社愛を強めないはずはない。先日もある会合で藤井社長からこんな話を伺った。それは末期がんになったある社員が、意識がもうろうとする中で、家族宛てに書いた遺書の話である。そこには「死んだら、私のひつぎの中に生前、毎日着ていた会社の制服を入れてほしい。そして火葬場に行くときは、自分が通勤していた道路を走り大好きな会社に立ち寄ってほしい」というものだった。 ここまで社員に愛されている企業はなかなかない。この話を聞いたとき、私は目頭が熱くなった。また、藤井社長はたまたま隣にいた一人の社員を指さし、こう言った。「社員の多くは二世代、三世代続く社員です。彼のおじいさんも元社員。社員も世襲制なのです」。 こうした社員思いの経営は、単に自社の社員だけではなく仕入先・協力企業の社員、さらには、地域に住む障がい者などに対しても実践されている。仕入先に対してはフェアトレードを基本に、受発注企業双方が、ともに幸せを実感できる取引を原則としている。例えば、仕入先・協力企業で不良品を出してしまった場合にも、一方的にその非を責めるのではなく、自社にも問題があるという意識で、同社から専門の担当者を仕入先・協力企業に派遣し、ともに問題解決を図るという。 このような優しい取引姿勢という 新潟県燕市に「フジイコーポレーション」という中小企業がある。創業は今から150年前の1865年。現在の主事業は家庭用草刈り機や除雪機などの製造やプレス部品の受注生産である。 業績も順調で近年の売上高経常利益率は5%をはるかに上回っている。同社のこうした長寿や好業績の要因は多々あるが、あえて一つだけ取り上げるならば、歴代社長の経営の考え方・進め方が、社員や仕入先、さらには顧客や地域住民の高い支持を集めてきたからだ。 このことは、同社が創業以来「会社は家族・社員は家族」を錦の旗に、どんなに苦しくなっても社員とその家族の命と生活は守ることを最優先してきたことを見ればよくわかる。近年の例でいえば、あのリーマンショックの際、売上高は半分近くに激減し、数億円の赤字を出すなど甚大な影響を受けた。しかし、このときも同社は、人員を整理するどころか、離職者すら出していない。 藤井大介社長は常々「人件費ということもあり、同社の仕入先・協力企業との取引歴は総じて長く、中には取引歴が85年という企業もあるという。余談であるが、同社では出張の折、持っていく手土産は、地域の障がい者が働く就労施設で生産販売している商品だという。こうした話を聞くと、なぜフジイコーポレーションが元気なのかが分かる気がする。家族の命と生活を守り続ける『フジイコーポレーション』vol.33コラムコラム16

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