所報10月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。ほかに、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べ行ってきた革新的企業づくりは多々あるが、ここではとりわけ読者のヒントになると思われる二つのことについて述べる。 一つ目はアットホームな経営の実践である。立石社長は、ES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)なしと考えた。社員を家族の一員と評価し、位置付けた。社員は言うに及ばず、その家族も同社に所属している喜びをかみしめられるような社員重視の経営をしてきたのだ。「どんなに不況でも、社員とその家族を苦しめるリストラはしない」と宣言したばかりか、社員とその家族が喜ぶ福利厚生に、何よりも注力してきた。 そのいくつかを紹介すると、社員の誕生日には「10万円の現金プレゼント」「社長と社員のツーショットの写真付きメッセージカードを配偶者やご両親にプレゼント」「営業担当社員のための5万円のスーツ手当」。さらには、社員の結婚記念日に「一流ホテルでの1万円の食事券プレゼント」などハートフルなものばかりだ。 二つ目は新技術開発重視の経営の実践である。どんなに良い福利厚生制度を実施しようと思っても、価格競争力を武器に経営をしていたならば、その実施は困難だ。そのため、同社では一貫して研究開発力強化に取り組んでいる。具体的には社員75人中、研究開発を専門に担当する社員を4人も 滋賀県の琵琶湖の南にある湖南市に「シンコーメタリコン」という名の中小企業がある。主事業は金属やセラミックスに防食(金属の腐食を防ぐこと)や、肉盛(母材の表面に目的に応じた金属を溶着すること)をするための溶射加工で、社員数は75人。聞くと、同社は国内で溶射加工を商品化した最初の企業でもあるそうだ。 筆者も同業種は良く知っているが、一般的に重厚長大型かつ、3K的職場が多く、人材不足や、その流出に日夜頭を痛めている企業が大半である。しかしながら、同社を訪問し、社員の目つき・顔つきを見て正直驚いた。というのも、同社の実態は、業界の常識・イメージとかけ離れた、明るく活気に満ちあふれた人材豊富な良い企業だったからである。 その最大の要因は平成6年、3代目社長として就任した立石豊氏の経営の考え方・進め方が社内はもとより市場から高い評価を受けたことにある。立石社長が社長就任後、この20年間で配員している。それだけでなく好不況を問わず、人材の育成にも愚直いちずに取り組んできた。その結果、今や社員75人が保有する公的資格は50を超え、新技術開発の基盤となっている。 シンコーメタリコンの存在を知ると、経営において経営者の哲学とリーダーシップほど重要なものはないとあらためて思い知らされる。社員を幸せにするために技術力を高める「シンコーメタリコン」vol.37コラムコラム16
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