所報11月号
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金融業部会 部会長脇水 雅彦(株式会社愛媛銀行 常務取締役)回復基調にある日本経済激変する金融業界の行方はの変化を捉えるの変化を捉える会会 ギリシャの財政危機や中国の景気減速など世界経済の不透明感が増しているなかで、米国経済は堅調な雇用環境や民間需要を中心に回復を続けている。9月に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)において最大の注目を集めた米利上げは、新興国への影響などを背景に見送られることとなったが、年内利上げも視野に入れている。10月には日本も参加している環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意に至り、参加12カ国で世界GDPの4割を占める巨大経済圏が誕生した。日系企業にとっても参加国の成長を取り込む新たな商機拡大につながることが期待される。 日本では2012年に安倍政権が発足し、アベノミクスが日本経済にもたらした円安と株高は、大手製造業を中心に企業収益の改善につながり、主要な上場企業(1500社)の2015年3月期における通期の経常利益は、リーマンショック以前の2008年3月期の過去最高益を上回り、7年ぶりに記録を更新した。昨年4月の消費税率引き上げによる反動もあり、消費回復には一部鈍さが見られるものの日本の家計が保有する金融資産は2015年6月末で1,717兆円に上り過去最高となった。一部海外要因によるリスクは否定できないものの、足元の日本経済は完全失業率の低下や就業者数の増加、賃上げなどによる所得環境の改善などを背景に緩やかな回復基調にある。 金融業界では日本郵政グループ3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)が11月に株式を同時上場する。国有企業の完全民営化案件としては1987年のNTT以来となり、貯蓄から投資へのシフトが期待される一方、今後競争はますます激しさを増すであろう。業界では進化した情報技術の活用あるいは新しいサービスによる利便性の向上、地方銀行の経営統合や生保による海外企業の買収が加速している。資金需要が伸び悩むなかで異次元緩和による貸出金利の低下によって国内の利ざやは縮小していることから、地方銀行も海外での融資や手数料ビジネスに力を入れはじめており、金融業界を取り巻く環境は大きく変化している。高齢化が進むにつれ、相続により預金が都市部に流出する懸念など、将来的に地方圏の金融機関の調達基盤は縮小することが予想されるが、出生率の増加や人口流出への対応策など地方自治体が取り組んでいる地方創生に金融機関の積極的な関与が強く求められる。 労働人口も減少するなかで日本経済が持続的な成長を遂げていくためには生産性の向上が急務とされている。訪日外国人観光客数は円安を背景に過去最高を更新し地方への波及も浸透し始めた。さらなるインバウンドへの取り組み、アジアを中心とした海外の需要も取り込みながら販路開拓やアグリビジネス、ベンチャー支援など企業が付加価値を高めていく取り組みを支援することが金融機関の今後の重要な課題となる。こうした役割を着実に果たすためには金融機関自身の経営基盤も強化する必要がある。経営統合や合併などによる効率化、業務運営の集約化など、あらゆる対策を講じ、収入源をどこに見出すか金融機関の経営改革が待たれる。第19回社社金融経済の現状および将来の展望についてコラム8

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