所報11月号
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坂本 光司/さかもと・こうじ1947年生まれ。福井県立大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、同静岡サテライトキャンパス長および同イノベーション・マネジメント研究科兼担教授。ほかに、国や県、市町、商工会議所などの審議会・委員会の委員を多数兼務している。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか』(かんき出版)など。法政大学大学院政策創造研究科 教授 坂本光司快進撃企業に学べともあったという。しかし、努力と苦労が実り、今や日本屈指のはんこ屋にまで成長発展している。加えて言えば、同社は障がい者雇用の面でも、非常に有名な企業で、すでに40年以上にわたり法定雇用率をはるか上回っている。 同社の成長発展の要因は多々あるが、ここでは2点に絞り述べることにする。 第1点は、同社の掲げた目標が良かったからといえる。同社の掲げた目標は3つある。 具体的に言うと、「お客さまに喜びと満足と感動を与える職場づくり」「働きがいのある職場づくりと社員の幸福を目指す」「社会福祉に貢献する集団をつくる」だ。規模や業績ではなく、こうした目標を高らかに掲げ、それを実現するための高付加価値経営を、全社員と協働し、愚直一途に実践してきたことが成功の要因といえる。 第2点は、大谷会長の「リーダーシップ経営」である。大企業・中小企業を問わず、自身のリーダーシップを「権威」や「権限」で発揮しようと考える経営者が少なからず存在する。だが、これは間違いである。そればかりか、そのような間違ったリーダーシップ経営を続けていたら、逆に社員の反発心や不信感を増幅させてしまう。社員のモチベーションは低下し、その結果として業績も低下してしまうことは目に見えている。 大谷会長は、「自分が社員ならば…」「自分が社員の家族であるならば…」を、常に肝に銘じ、経営の軸を 新潟市の郊外にある亀田工業団地の一角に「大谷」という社名の企業がある。主事業は印章の製造販売で、この分野では全国のリーディング企業である。業績もすこぶる好調で売上高は27億円、経常利益は約4億円、その売上高対経常利益率は何と16%だ。依然として、わが国企業の約70%は赤字基調という中で、驚くべき高業績である。 同社の創業は昭和26(1951)年、現会長である大谷勝彦さんの母親が、貧しい暮らしの中、「少しでも生活の足しになれば」と内職的にスタートしている。母のあまりの苦労を見て育った現会長は、一日も早く母を楽にさせてあげたいという一心で、進学を断念。中学校を卒業するやいなや、岩手県の印章メーカーに修業に出ている。 厳しい修業の後、故郷に戻り、41年に現在の大谷を設立。従業員は母親と自分だけで、お店は非常に小さく、わずか3坪でのスタートだったものの、その当時から夢だけは大きかった。同業者の会合ではいつも「日本一のはんこ屋になる」と夢を語り、業界仲間からは大ぼら吹きと言われたこ「業績」ではなく、「幸せ」に置き、経営を実践してきた。その例を示すと、「全社員へのガラス張り経営」「最も快適な空間に快適な社員食堂を設置」「最も大切な社員の入り口は通用門からではなく玄関から」。さらには「窓もない事務所の片隅にある小さな社長の席」などだ。大谷会長が、経営者の最大の使命と責任は「社員のモチベーションを高めること」と考えていることの証左であろう。人に優しい経営で、日本一のはんこ屋になった「大谷」vol.38コラムコラム16

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