所報6月号
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上席研究員日経BP総合研究所ことばのちから言の 季節の微細な変化を楽しめる心のゆとりをもって生きていきたい。 日経BP総合研究所上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。渡辺和博第三回葉力 「アップサイクル」という言葉をメディアなどでよく見かけるようになりました。本来ならば捨てられてしまうものを再利用して、新しい価値をつくり出すという意味です。似たような言葉に「リサイクル」がありますが、こちらは捨てられてしまうものをもう一度原料の形に戻して再利用しようという考え方です。捨てられてしまうものをそのままの形で、別の場所で再利用するのは「リユース」といいます。 アップサイクルは、捨てられてしまうものを、これまでとは別の視点で捉え直して新しい付加価値を生むところにポイントがあります。そのため創造的再利用と呼ばれることもあります。言葉だけではイメージしにくいかもしれませんが、このような事例があります。いまや愛媛県を代表する産品としてブランドになった今治タオル。色とりどりのタオルを染色して乾燥する際に発わたなべ・かずひろ生してしまう糸くずが、いま、意外な用途とシーンで話題を呼びヒット商品になっています。「今治のホコリ」というネーミングで発売されました。 なんということのないカラフルな糸くずというか、綿ぼこりをそのまま透明なプラスチックの筒に詰め込んだだけの商品です。これがアウトドア用のたき火やバーベキューの着火剤として、新たな市場価値と捉えられてヒットしています。もともと空気を大量に含んだふわふわな糸くずなので、火を付けるとすぐに燃え上がります。実は、アウトドアでたき火やバーベキューのために火をおこすのは、それなりにテクニックが必要です。それが簡単にできて見た目もカラフルというのが、この素材がうまくはまった理由でしょう。 捨てられるものは、本来ならば一つの物差しで測ったときに価値がないと結論づけられたものです。ところが、それが持つ別の機能性や特徴が生きるシーンとマッチングすれば、新しい価値を持った商品に生まれ変わるという構造です。まさに「捨てる神あれば拾う神あり」といえます。 実は、こうした捨てるものを付加価値の源として再活用する考え方は、これまでにもたくさんの分野で試みられています。例えば、大分のかぼすブリや愛媛のみかん鯛、広島サーモンのようにご当地の特徴的な柑橘類を絞った皮を餌として与えて育てた魚は、同じ魚種でも柑橘類が持つ成分によって臭みが低減される上、先にブランド化している柑橘との組み合わせで地域性を持たせることができるため、新しい地域ブランド商品に育っています。 魚に関していえば、魚種としてあまり知名度がなかったり鮮度維持が難しかったりするために、水揚げされてもあまり利用されなかったものが未利用魚として缶詰になる、食材定期便に採用されるなど、SDGsの文脈の中で新たな価値として注目されるようになってきました。これまでの物差しでは捨てるものでも、時代によって物差しが変化したり、残存する機能や成分などが生かせる新たな市場が生まれたりしています。「『アップサイクル』を形にしてみせた今治のホコリ」トレンド通信 コラム18書道家たけだ1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。約3年後に書道家として独立。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」など、数々の題字を手掛ける。講演活動やメディア出演のオファーも多数。年元号改元に際し、「令和」の記念切手に書を提供。ベストセラーの『ポジティブの教科書』(主婦の友社)をはじめ、『丁寧道』(祥伝社)、『「ありがとう」の教科書』(すばる舎)など、著書は 60冊を超える。2013年度文化庁から文化交流使に任命され、ベトナム・インドネシアにて、書道ワークショップを開催、17年にはワルシャワ大学にて講演など、世界各国で活動する。近年、現代アーティストとして創作活動を開始し、15年カリフォルニアにて、アメリカ初個展、19年アートチューリッヒ、21年ボルタ・バーゼルに初出展。ドイツ・スイス・三越伊勢丹各店舗・大丸松坂屋各店舗などにて個展を開催し、盛況を博す。そううん【公式ホームページ】https://www.souun.net/【公式ブログ「書の力」】 https://ameblo.jp/souun/武田 双雲経営コラム

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