所報4月号
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 広島のソウルフードといえばお好み焼きです。お好み焼きにまつわる面白い話を聞きました。広島県民のお好み焼き愛は強く、コロナ禍でお店での飲食が難しくなった時期には、テイクアウトの利用が大きく増えました。しかし、ここに新たな問題が生じました。 広島のお好み焼きは、キャベツも生地に練り込んで焼く大阪のお好み焼きとは違い、薄く焼かれた生地の上にキャベツをたっぷり山盛りにのせてつくります。この大量のキャベツから出る水分量がとても多いのです。熱々のお好み焼きをプラスチックの容器に入れて持ち帰ると、ふたに付いた湯気が水滴となって下に落ち、薄い生地に染みてしまいます。せっかくつくりたてを買っても、食べるときには全体がべちゃべちゃになってしまうのです。 この問題を解決するために、お好み焼き専用の持ち帰り容器を開発した会社があります。 プラスチックや紙などさまざまな素材で食品パッケージをつくる株式会社シンギ(広島市)が開発したのは、サトウキビの搾りかすを原材料にした厚手のボール紙のような素材です。これを成形し、ふたには湯気が水滴化しないように適度な吸湿性を持たせ、底にも水滴がたまらないような構造を取り入れました。 この容器は熱や低温にも強く、テイクアウトの用途だけでなく、冷凍にしたお好み焼きの容器として、通販や県外での販売にもひと役買っています。東京にある広島県のアンテナショップでもこの容器を採用したお好み焼きが買えます。 容器・包装資材が広域の運搬に対して商品の価値を保つ例は、ほかにもあります。例えば、高知県はニラの生産量と出荷量が日本一ですが、京阪神や関東圏など大消費地から遠く離れています。せっかく良いものをつくっても、それが消費者のもとへほかの産地と競争力を保った状態で届かないとビジネスにはなりません。 そこで、高知県が主導して開発したのが、出荷するときにニラを包む筒状のプラスチックフィルムを工夫して鮮度を保つ技術でした。収穫したニラをこのフィルムに入れて封をする際に、ニラから出る炭酸ガスの量を制御できるようなシール法を開発しました。これによって、鮮度を保てる期間が延びたため、京阪神はもとより、首都圏まで高知のニラは届けられています。また最近ではこのフィルム自体をさらに薄くして使い勝手を高め、技術を進化させています。 流通業界を圧迫する2024年問題もあって、おいしいものをおいしい状態を保ったままどうやって消費者の元へ届けるかは、大きな課題でもあり、さまざまな素材やシーンで新しい提案が求められている分野です。また、通信販売や出前配送(デリバリー)などでは、消費者の食卓まで、出来上がったものをつくり手が届けることも求められています。 消費者はより高度なものを求め、ますますわがままになります。モノやサービスを届ける事業者にはとても厳しい状況ですが、逆にいえばそこにビジネスチャンスがあるのです。魂く響に経営コラムトレンド通信科学的な検証や損得を必要とせず、愛だけに生きる知的障害を持つ翔子はマイナスの存在と思われがちだけれど、そんなことは無い。文明は愛によって支えられるのであって、科学の水準が愛の水準をはるかに超えてしまうとき文明は滅びると聞いた。翔子の持つ無償の愛は大きな知性のたまものかもしれない。上席研究員渡辺 和博わたなべかずひろ コラム18No.11「おいしさ運ぶ容器も進化している」書道家金澤 翔子かなざわ・しょうこ 日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ  https://k-shoko.org/■Instagram      https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/日経BP総合研究所

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