経営コラムトレンド通信魂く響に 外食のラーメンの標準的な価格が1000円を超えたかどうかが、話題になっています。この1000円という価格は、相場ともいえるもので、消費者から見ればこれ以上は出せないと感じる心理的な壁であり、提供する側から見れば、本当は超えたいけれど、超えてしまうと一気に売り上げが落ちるリスクを感じるラインです。 最近になって、行列ができる人気店で最も標準的な商品に1000円以上の値付けをするところがいくつも現れています。光熱費や原材料価格の高騰で、壁の手前で痩せ我慢するより、きちんと特徴を打ち出して納得ずくで1000円以上払ってもらおうという考えの店が増えてきました。一方、大衆的な中華食堂チェーンなどでは、ラーメン1杯どころか定食ですら1000円以下を維持する店もあります。話題性や感動を求める市場と、日常の節約志向の両方が並行して繁盛しており、ここでも市場は二極分化していると感じます。 こうした価格面の心理的な壁は、それを越えた先駆者の高付加価値商品が受け入れられることによって徐々に崩れていくものです。例えば、サバの水煮やみそ煮の缶詰はかつて100円以下でスーパーの特売品の目玉として安売りされる存在でしたが、この数年で健康ブームに乗ったこともあり、200円台から300円台、ブランドの確立したサバを使った商品では400円を超えるものも市場に定着してきました。 先日、こうした価格設定について面白い話を聞きました。近年、茨城県で徐々にご当地グルメとして知られるようになってきた「いばらきガパオ」の仕掛け人と話していて、「日常的になじみのあるラーメンや焼きそばなどは、だいたいこれくらいの価格が上限という壁ができやすい」という一方、「あまりなじみのない新規性のある商品は、最初からある程度高い価格設定をしても受け入れられやすい」というのです。 価格の壁は長年の習慣によって形づくられるため、同じものでも先入観のない場所では新規性のある価値として受け入れられます。先に挙げたラーメンの例でいえば、国内で人気のラーメンチェーンが1000円以下で売っているのと同じとんこつラーメンが、ニューヨークでは3000円以上で売られています。「ラーメンの1000円の壁」は、実は世界にはほとんど存在せず、欧米やアジア、インドでもラーメンは1000円以上するのが普通です。これは、それぞれの地域にとってラーメンが珍しく、新規性のあるものとして市場開拓をスタートしているからだと考えられます。 こうしたことは外食産業に限らず、工業製品などのものづくりについても、よくいわれることです。これまでの物差しや習慣で計れない価値を提供することで、価格設定の主導権が握れます。同じ場所で新規性を追求するか、同じものでも違う場所で勝負するか、壁を越える方法はいくつもありそうです。花は生き残るために懸命に咲く。花は生き残るために懸命に咲く。路傍の小さな花でさえしっかり自分を主張している。よく見ると見事にその意思が見える。書道家金澤 翔子かなざわ・しょうこ5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/No.12「ラーメン『1000円の壁』は越えられたのか」上席研究員渡辺 和博わたなべかずひろ コラム18日経BP総合研究所 日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。
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