「笑」は心をつなぐ力を持つ。脳内でストレスを和らげる化学物質を放出させ幸福感をもたらす。まず、笑いましょう。何が違うのか?」 紀伊半島南部の山の中に世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」、いわゆる熊野古道があります。その傍らの廃校になった小学校跡地を利用し、グローバル人材育成を目指す小中一貫校「うつほの杜学園(仮称)」を創立しようという動きがあります。クラウドファンディングなどによる資金集めや体制づくりなどの準備が進み、2025年4月に開校する予定です。そのプロジェクトを主宰する仙石恭子さんのお話を聞く機会がありました。 仙石さんは和歌山市の出身で、東京の大学を卒業後、イタリアに住み、仕事でイタリアのさまざまな地方に足を運んでいました。そこで感じたのが「海あり山あり。美しく、豊かな農水産物がある。和歌山の田舎とイタリアの田舎はとてもよく似ている」ことでした。一方で、大きな違いもありました。イタリアでは小さな田舎町にも世界中からその地域の食や景観を求めて観光客が来るのに、なぜ和歌山の田舎は寂れる一方なのか。 イタリアでは、都市部で働いていても週末には地元へ帰って知人や家族と過ごす人が多く、その行動のベースになっているのが自分の生まれ故郷に対する強烈な誇りと愛情なのだそうです。よそから来た人に対しても、自分の村や町が世界一だと誇りを持って自慢します。地域の文化や暮らしに誇りを持ち、それを世界に対して伝えられる人材がたくさんいる。そのことが地域の活気の差を生む原因ではないかと仙石さんは考えました。 子育て期に入ったことを機に生まれ故郷の和歌山に帰ったものの、国際的な視野で人材を育てる学校が地元にはないと知り、それならば自分でつくろうと思ったのがこのプロジェクトの始まりでした。県内の自治体に学校づくりの構想を伝えてもなかなか相手にされず、受け入れてくれたのが熊野古道を擁する田辺市だったのです。 仙石さんの話を聞いて、イタリアの田舎にあって日本の田舎にないものは、人材のほかにまだあるのではないかと私は感じました。それは、地域の価値や魅力を広い世界の人たちに伝わるように表現するデザインの力です。例えば、日本酒とワインのラベルのデザインを比べてみれば分かると思います。最近でこそ日本酒のラベルデザインも多様化してきましたが、筆文字の漢字で酒蔵の名前や銘柄、あるいは大吟醸や山廃といったつくり方を大きく表記したものが多く、それだけでは漢字が読める人以外の消費者に魅力や違いが伝わらないでしょう。日本酒は製造工程もワインよりはるかに複雑で、もっと付加価値を世界中にアピールするべきだと思います。 デザイン力を上げるには、まず「何を伝えるか」(提供する価値)の中身がきちんと整理されていないといけません。さらにそれを「誰に伝えるか」「どのように伝えるか」によって、形やテキスト、色合いなどを最適化します。 地域が誇る伝統のものづくりがこの先世界で勝負していくためには、デザインに対する考え方も大きく変える必要があると思います。経営コラムトレンド通信魂く響にNo.13「イタリアの田舎と日本の田舎は上席研究員渡辺 和博わたなべかずひろ コラム18日経BP総合研究所書道家金澤 翔子かなざわ・しょうこ5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/ 日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。
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