「何でもかんでもChatGPTに相談してますよ」。和歌山に帰省したとき、今勢いのある地元の食品会社の社長をしている友人がそう話していました。自分の会社の売上規模や商圏、地域の経済指標などを踏まえて、新商品の売り方や開発の方向などもAIに相談しているとのこと。もともと「自分は頭も良くないし田舎者なので、何でも人に聞いて教えてもらう」という姿勢を持つ経営者です。「仕事に限らず、どんな些細(ささい)なつまらないことを聞いても真面目に答えてくれる」のがAIの良いところと力説していました。 ChatGPTやCopilotなど、条件付きなら無料で使える生成系AIサービスが普及してきました。私も調べものやちょっとした相談事、アイデア出しのサポートによく使います。面白いのは、同じ質問でも使うAIの種類によって答えが大きく違うところです。例えば「地域おこしで成果を上げている高校生の活動事例を五つ挙げなさい」と前述した二つのAIサービスに聞いてみると、それぞれまったく違う事例を紹介してくれます。それはそれで面白いのですが、ある意味これがAIの良いところでもあり、注意しなければならない点でもあります。つまり、回答したものが唯一の正解なのか分からない、なぜその回答を出してきたかも分からない、といった点です。ですから、AIから得られた回答をそのまま何かに使うことは避けた方がよいでしょう。私はさらにGoogleなどの検索サービスにも同じ質問を投げ、結果も踏まえつつ自分で切り口を考えてアイデアの参考にしています。 回答の信ぴょう性のほかにも注意点はあります。広くネット上に流布した情報を基に回答を生成しているため著作権に配慮がないことや、こちらが出した質問自体も他者への情報として利用されてしまうので、本当に秘密にしたい質問はしない方がよいといったことです。また、最近のトピックや情報は回答を生成する基になる情報に組み込まれていないため、どんどん状況が変化しているような事象についてはあまり使えません。 精度の高い回答を引き出すためには、ちょっとしたコツもあります。プロンプトと呼ばれる、入力する質問をできるだけ具体的に条件を付けて記述し、AIが出力する形式や分量なども具体的に指示する方が良い結果を得られるようです。AIを業務に利用するノウハウを研究している人に聞くと、「社会経験がなく融通の利かない、優秀で真面目な新入社員に仕事を頼むイメージ」だそうです。山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ」というのはAIに対しても通じるようです。「褒めて」というのは、正解をフィードバックして学習の精度を高めることに相当します。 気軽に調査を依頼したり相談したりする専門家が少なく、世間が狭くなりがちな地方の中小企業経営者にとって、AIはかなり便利で有効なツールです。スマホやパソコン同様、この先必ず常識になるものですから、つまらない質問でも何でもとにかく使って「慣れる」ことが重要だと思います。手始めにランチのお店でも聞いてみてはいかがでしょう。魂く響に「神は急いでいない」サグラダ・ファミリアのアントニ・ガウディの言葉です。今、世界は急ぎ過ぎている気がしますが。経営コラムトレンド通信上席研究員渡辺 和博わたなべかずひろ コラム18日経BP総合研究所No.17「地方の中小企業こそAIをうまく活用しよう」書道家金澤 翔子かなざわ・しょうこ5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ https://k-shoko.org/■Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/ 日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。
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