所報2月号
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経営コラムトレンド通信 先日、京都を訪ねた人からお土産に、小分けになった漬物数種類と小さな缶に入ったお茶をいただきました。それを見て「さすが京都だな」と感じました。 その漬物は、しば漬けやすぐき、しその実漬け、福神漬けなどが20g前後に小分けされてプラ容器に入っていました。漬物はかのセットで買うこともできるそうです。1人あるいは2人で一食を使い切れて、いろいろな漬物を試せるサイズと使い勝手です。それぞれのプラ容器は透明ですが、シールは水色、ピンク、黄色とカラフルでかわいらしい見た目になっています。常温で持ち運べるようにしている点も土産物として優れています。 小さな缶にティーバッグを入れた土産物は、京都ではいくつものメーカーがつくっています。いずれも缶のデザインや色使いは現代調でありながら、歴史と伝統を感じさせる要素を盛り込んでいます。おしゃれで小さく・かわいく、京都らしいものに仕上がっています。 私見ですが、京都や金沢、鎌倉といった古くからの観光都市で売られているお土産は、全体的に商品企画やパッケージデザインが優れていると感じます。それは長年の競争と淘汰(とうた)のたまものでしょう。中でも京都でヒットしている商品は、京都らしさを象徴する「歴史」「癒やし」「おもてなし」の三つの「し」を押さえた上で、現代の生活者にも使い勝手が良いように配慮されています。 小分けやティーバッグに代表されるような使い勝手の良さは、その時代によって求められる内容が変化します。1世帯当たりの人数がもっと多かった時代では、小分けよりももう少し大きなものが喜ばれたでしょう。また、先に挙げた三つの京都らしさについても、ターゲットとする人の違いで重視されるものが変わってきます。「歴史」と「おもてなし」は変わらないかもしれませんが、人によっては「学び」であったり「驚きと感動」であったりします。また、単にモノとしての消費よりも体験を重視する人もいるでしょう。 今回の漬物の小分けが良くできていると感じた理由に、この商品のコンセプト自体がお客さんの「次のアクション」を誘発していることもあります。そもそも土産物は、指名買いやリピーターを除けば、それまで顧客ではなかった人とつくり手の新たな接点だといえます。小分け・多品種の商品は、それ自体が店頭における試食品のようなもので、試した中でどれか一つでも気に入ってもらえれば、次の購買につながります。すぐに京都を訪れる機会がなくてもネット通販で買え、各地の取り扱い店舗でも買えます。 そういう意味では、お土産用につくられた商品は優れた営業パーソンのようなものといえます。そして小さく・かわいらしく、運びやすく、シェアしやすいことが重要なのです。100年を超える老舗が歴史や伝統を守りながらも、デザインや商品企画を洗練させて、現代の消費者の求めるものを押さえています。そんなところに京都の底力を感じます。魂く響に「神はこの世に不要なものを創らない」の言葉に母は光明を見いだした。プラスアルファに学ぶこと」日経BP総合研究所書道家金澤 翔子かなざわ・しょうこ19 コラム上席研究員渡辺 和博わたなべかずひろ 日経BP総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。10種類ほどあり、バラで買うことも何種類5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始めた。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、国内の神社仏閣や美術館のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受章した。■公式ホームページ  https://k-shoko.org/■Instagram      https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/No.19「京都土産の三つの『し』

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